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第2話
たかがホテル と言うなかれ
2005.03.07
早くもゴールデンウィークにココロが飛んでいる。NY留学時代の同級生で、香港の超リッチファミリーのお嬢様ブレンダの結婚式に招待されたのだ。インビテーションメール貰って速攻で返信。何が何でも行きますわ。アイ ウィル デフィネタリー ゴー!!二泊三日の旅行中、ガキンチョ二人&オットのお守りはオット実家にお願いすることに。ということは 私は一人で香港のホテルにお泊り。ひ・と・り・の夜!!!ガキンチョまみれの日常を過ごすコモチ女にとって、これは極上の贅沢。例えれば、分厚いフォアグラに最高級のトリュフがばば〜〜んと添えられた料理が、ロマネ・コンティのボトルと共に目の前に突然現れたようなもん。こんな夢のような夜次いつ来るかわからない。貪るように、心行くまで楽しまずして 何としよう。コナシ時代には ごくごく簡単に手にいれることのできた「一人の時間」それは コモチになると突如として 超プレミアムなお宝になってしまう。「オトコもいらん、ブランド物もいらん、私に『一人の時間』をくれ〜〜!!!」とココロの中で叫んだ夜が幾度あったことか。ああ、魅惑のプレミアムナイト。これを堪能するにあたっては それにふさわしい舞台を選ばねばならぬと、迷わずペニンシュラホテルを予約。普段は特売品ゲットを目指して 隣町のスーパーまでママチャリをすっ飛ばすわたくしなれど、ホテル選びとなると 財布の紐はユルユルに緩んでしまうのだ。実はわたくしとってもホテル好き。という訳で今回は マダーム佐々木の極上ホテルサービス体験談。
ロンドンに クラリッジスというホテルがある。1812年創業の歴史を誇り、優雅かつ豪華な佇まいの格式高き五つ星ホテル。十数年前の事になるが、仕事でラッキーにもそして分不相応にもこの由緒あるホテルに宿泊する機会を得た。ホテルに滞在中、私の部屋のエアコンが故障したため、修理をお願いして外出した。結局ホテル側の判断で部屋替えとなり、ホテルに戻った時には、荷物はすべて新しい部屋に運ばれていたのだが、部屋に案内されてびっくり。以前の部屋での私物の配置の状態が細心の注意を払ってそっくりそのまま完璧に再現されていたのだ。つまり、ドレッシングルームに並べてあった化粧品などの数々のボトル類、クロゼットに仕舞い込んだ衣類、書斎机の上に無造作に広げてあった書類・文具類、ベットの上に脱ぎ捨ててあった部屋着。それらがさりげなく整頓されながらも、すべてがそのまま魔法をかけられて空間を部屋から部屋へと平行移動してきたかのように、並べる順番も置き場所も全く変わることなく配置されていたのである。部屋替え後の違和感を出来るだけ宿泊客に感じさせないようにという心配りに、ただただ感激したのであった。
さてその翌日、市松模様の大理石が美しいロビーで同行者一同談笑中に、A氏がうっかりと スーツのジャケットを脱いでワイシャツ姿になってしまい、つつつと駆け寄ってきたホテルマンにジャケットを着るよう注意されてしまった。そうこのホテルではパブリックスペースでは常に上着の着用が求められているのだ。注意を受けたA氏はやはりちょっとばつの悪そうな様子、我々グループの会話も一瞬途絶えややしらけムードに。するとこのホテルマン、何事もなかったかのように今度はにっこりと満面の笑みを浮かべ、「ところで、皆様を特別にホテルツアーにご招待させて頂きたいのですが、お時間はありますでしょうか?」と言うではないか。彼は我々に「アールデコの宝石箱」と呼ばれるホテル内に数々ある装飾品などを見せて回り、それらにまつわるエピソードなどを紹介してくれた。壁面の絵画が素晴らしいバンケットルームでは「このお部屋で各国のエンペラーがレセプションを催すのですよ」などと教えてくれる。先ほどは一瞬沈んだ我々の気分も 美しいホテルの調度品を眺め、そして何よりも 特別な心遣いを受けたという嬉しさで 一気に華やいだ。ジャケットを脱いでしまった宿泊客に上着着用を促すところまではホテルマンの決まりごと。でも その後の宿泊客の状態を見て 機転をきかせ、そして何よりも「顧客を喜ばせたい、快適な思いをさせたい」という思いやりの心をもって マニュアルにとらわれず プラスアルファのサービスを提供する。なんと粋なことか。これぞホスピタリテイーの極みとまたまた感激したのだった。
このホテル「バッキンガム宮殿別館」とも呼ばれ、英国皇室御用達のホテルであると聞いていたのだが、さもありなんと納得しつつホテル滞在も三日目。ロビーに降りていくと、いつもは黒服のホテルマンたちが 赤地に金モールの上着を着ている。白い中世風のかつらを被っている人たちまで。ど、ど、どうしたの?と近くにいたホテルスタッフにこっそり聞いてみたところ、「先ほど ダイアナ妃がこちらにお茶を飲みに来ると連絡があったので、皇族をお迎えする特別の制服を着ているのです」との事。ダ・ダ・ダイアナ〜〜〜。ミーハーな私のココロは大いに弾み、なんとしてもダイアナ妃の姿を拝みたいとロビーをうろついていたのだが、彼女の到着前に外出の時間となり、何とも残念な事であった。
クラリッジスのホテルマンたちの立ち居振る舞いも それは美しく、まるで調度品の一部のよう。最高のサービスは芸術だ!と感動し続けたホテル滞在だったのだが。さて、このホテル私にとって心底寛げる場所であったかというと、それは また別の問題。当時私は20代後半のひよっこムスメ。しかもとことん庶民の出。クラリッジスのサービスを堪能するほどの「格」は備わっていなかったと言えよう。格式ある超一流ホテルの雰囲気に舞い上がって、ココロは高揚しっぱなし。で、本音はちょっとびくびく。高すぎる敷居をまたいでしまったというところ。私が宿泊した部屋には 普通ホテルには必ずある、冷蔵庫もミニバーもなかった。ミネラルウオーター一本置いてないのだ。その代わり 部屋のあちこちに 「召使」と書かれたブザーボタンが備えられている。つまりは、とにかく用事があったら、どんな些細なことでもホテルのスタッフがお世話しますという事らしいのだ。クラリッジスに泊まるようなお客様は 自分でちまちまと飲み物なんかつくっちゃあいけません。僕(しもべ)にやらせなさい、という事だ。ホテルに到着したその夜 喉が渇いて目が覚めてしまった私であったが、この「召使」というボタン とうとう押せませんでしたよ。夜中に「ちょいと水を持ってきておくれ」なんてイギリス人を呼びつける度胸はわたしにゃないよ、とほほほほ〜とひからびそうになりながら情けない朝を迎えたのであった。ちなみに 2001年に大掛かりな改築が行われたそうで、現在は全室にミニバーが備え付けられているそうな。サービスのあり方も時代と共に変わっていくのであろう。
とはいえ、クラリッジスこそ私を「ホテル好きなオンナ」に導いたホテルである。あれからもう10年以上たち、結構アチコチのホテルを泊まり歩いたし、なんと言っても 「中年オンナ」のずうずうしさが確実に備わって来ているわたくし。(悲し〜)今クラリッジスに泊まったらもう少し泰然とホテルサービスを味わうことが出来るのではないかと思うのだが、ちょいと自惚れすぎかしらん。ま、まずは まずは 4月の香港ペニンシュラですわ〜。とことん味わい尽くしますホテルライフ。って この意気込みってやっぱり貧乏くさいかな。
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