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第5話
「1つのトマトには、1人の人生が詰まってる」

2005.03.25

こんにちは。料理人植木です。

ようやく春、私の大好きな季節がやってきました。今回は、春野菜についての話。

野菜については以前からこだわりがあり、色々な畑に実際に足を運んできた。採りたてを口にしてみるだけではなく、その土地を肌で感じる、そしてその時感じたことを料理に活かす。文章にすると妙に理論的だけど、実際はとても感覚的。でも、この「感覚的なものが実際に料理という形になっていく過程」の楽しさは、料理人である醍醐味の1つだ。

最近は、生産地やその土壌以上に、生産者自身に対してこだわり というよりもの凄く興味を持つようになってきた。その人の歩んできた道、ものを作ることに対する姿勢・誇り、作っているものに対する情熱や愛情・・・・彼らに会って話をしてみると、多少大げさな表現かもしれないが、今まで何気なく手にしてきた野菜1つ1つに、作り手自身の人生が詰まっていることを強く感じる。

先日、永田農法で名高い永田照喜治さんを訪ねて浜松に行ってきた。永田農法についてはご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、熊本出身の永田さん自身の長年の経験から、やせた赤土、強い西日、極力水を与えないなど作物への栄養供給を絞り込み、それによって作物自体が持つ力で旨みを高めようとする農法だ。この農法は世界的にも認められ、イスラエル、中国、オランダなど世界各国で普及活動をしていると聞いた。

訪れた時に特に印象に残ったのが、紅ホッペという可愛い名前の苺と、トマトを使ったジュース。苺は、人工的な過度の甘みがあるわけではなく、みずみずしい感じと自然の甘さのバランスが絶妙。そしてトマトジュースは、一緒に農園を訪れたトマト大嫌いの友人が、恐る恐る口にした瞬間、一言「うまい!!」。これには、たまげた。ちなみに、苺は既にスープとして、メニューに並んでいる。今後は、トマトとほうれん草も使わせて頂く予定だ。

そんな永田さんの野菜をはじめ、作り手の人生が詰まった材料を使って料理をする以上、当然いい加減に取り組むわけにはいかない。最初に書いた「感覚的なものが実際に料理という形になっていく過程」にも、楽しさと同時に、以前より緊張感が加わってきた。手前味噌で大変恐縮だが、この緊張感によって、自分の料理の幅、組み合わせ、味といった技術的なものがグレードアップし、また料理への思い入れという精神的な部分にも、多少深みが出てきたような感じがする。

最後になるが、今回のコラムで一番書きたかったこと。それは、極悪非道な事件ばかりがニュースを賑わす昨今だが、野菜でも何でも、自分の人生をかけて何かを一生懸命作っている人がいる限り、「日本人も、まだまだ捨てたもんじゃない。」ということ。そして、決して聖人君子ではなく日々失敗ばかりしているこんな私でも、彼らとつながり、彼らの作ったものを「料理」という形で世の中に出すことで、何かしら世間に貢献出来ているとすれば、料理人をやっていることに今まで以上に誇りを感じる。

ちょっと大げさな表現含みの「春野菜の話」になってしまったが、とにかく、そんな誇りを持って頑張りたい。大好きな春だし。それでは、また。



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