第12話
千代幻豚と飯田の人達との夕べ
2006.11.2
大変、ご無沙汰しています。料理人、植木です。
皆様、お元気ですか?前のコラムから約半年、今回は、信州の小京都と言われている長野県飯田市でのちょっとユニークなディナーパーティーの話。
事の発端は、この夏に日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン」という番組の「ゴチになります」という企画に出演させて頂いた際にさかのぼる。出演にあたって日本全国から様々な食材を探していた時、長野県飯田市の千代と言う場所で、「すごい豚」を育てている話を聞いた。「すごい」と聞いたからには是非試してみたい、とすぐに生産者の方に会った。すぐれた食材に携わっている人の多くがそうであるように、自分の食材(=豚)をこよなく愛し、情熱を持って取り扱っている姿にまず感動。そして、その豚、千代幻豚がとにかくうまい!!どんな形容詞よりも、この一言に尽きる。今迄にも色々な豚を食べてきて、それぞれそれなりにおいしかったのだが、この豚は特に脂身が甘くておいしい。そして山間の緑深い、丁度日本昔ばなしにでてくるような自然の中で育てられていて、それがこの豚の価値をさらに高めているような気がした。ちょっと大げさかもしれないが、この豚に関する全てが自分の琴線に触れた という感じだった。
こうして飯田市とのお付き合いが始まったのだが、ふとした際に生産者の岡本さんから「飯田で、何か催しをやってみませんか。」という話を頂いた。これが最初に書いたディナーパーティーのスタート。ディナーのポイントは2点。元々が食材つながりなので、千代幻豚をはじめとする地元の食材を使ったスペシャルディナーを作ること、そしてメインゲストは地元のシェフでも偉い人でもなく、これからの飯田市を担う若者達とすることで話がまとまった。その後は岡本さんをはじめとする地元の方々と一緒に、飯田市の役場の人達、野菜など地の食材の生産者、そして今度成人式を迎える若者達に話をして、企画が実現することになった。
メニューのテーマは、「地のものを地に返す。」ということ。少し分かりにくいかもしれないが、要は同じ土壌で育った食材同士、相性は抜群なのだから出来るだけ地元の食材を使う、そしてその相性の良さをさらに引き出すメニューとすることで、地の食材の素晴らしさを改めて地元の人々に感じてもらう ということである。ちなみに、メインの千代幻豚を使った料理では、地元の半天然のキノコを使ってクリーム煮を作り、さらに地元の味噌を合わせた。
こう書くとえらく格好が良いが、実は当日はかなりバタバタだった。メニューは事前にばっちり考え、材料を準備し、東京からスタッフも揃えていった。準備は万端の筈だったが、思わぬところに落とし穴があった。当日の会場は、地元のレストランやホテルではなく、公民館。普段は料理実習をしているような場所を厨房として使わせてもらったのだが、当然のことながら本格的な料理をしかも大人数分作る仕様にはなっていない。正に文字どおり「勝手がちがった」のだ。
オーブンが小さく、本来は1回で行う肉の火入れを何回にも分けなくてはならない、準備している鍋を置くスペースがない、塩、胡椒、バターといった基本的な調味料が足りなくなる・・・・細かく挙げていったらきりがない程色々なことがあり、一方で一歩厨房を出ればこの日を楽しみにして集まってくれた若者達や、企画実現の為に努力頂いた皆様の顔が並んでいる。あせるばかりで仕事は進まず、ハラハラドキドキ。久しぶりに「本当に参った。」と感じた。結局メニューの微調整を行い、スープ、前菜、魚、肉となんとか進み最後にデザートを出し終わった時には、心底ホッとした。
そんなこんなでディナーそのものも非常に印象深いのだが、ディナーの後の参加者の皆様との懇親の時間はさらに有意義だった。基本的には僕を中心とした雑談形式で色々と話をさせてもらったのだが、若い人達を相手に自分の歩んできた道のり、夢を持つことの大切さ、苦しかったこと、若さというキラキラした素晴らしさ、などについて語っているうちに、自分自身、ちょっとこみ上げてくるものがあった。特に、「東京や名古屋など都会に目を向けて新しい土地で勝負したいということも分かるけど、生まれ故郷の土地もこんなに豊かで自然に恵まれ、そして素晴らしい食材がある。足元を見て、地元をもっと活性化していくことも、凄く大事だよ。」ということは、本当に熱く語ってしまった。
最近よく、「食育」という言葉を耳にする。通常は、ちゃんとした食材をちゃんと調理してバランスよく食べること、食品に関する正しい知識を身につけること、食文化を知ること、そしてこれらについて考えること といった意味で使われていると理解しているが、僕はこれにプラスして地域の活性化ということも考えなければいけないと思っている。都市と地域がバランスよく活性化していく為に、「食」というのは大きなキーワードになりうると考えているからだ。
と、最後はまたいつもの植木節でちょっと偉そうなことを書いてしまったが、実は現在、以前にご報告した銀座の「カユマニス」の総合プロデュースをする傍ら、この思いを形にするべく「食」に関するいくつかのプロジェクトに携わっている。もう少し具体的になったら、まっさきにコラムで発表するのでよろしく。
以上、色々な思いが詰まった飯田の秋の1日より。それでは、また。
PS.
新しい「Restaurant J」についてのお問い合わせを多くの方から頂戴し、本当に嬉しく思っています。ありがとうございます。ここまでお待たせした以上は、良い意味で期待を裏切るべく、現在準備中です。もうしばらく、お待ちください。
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