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第1話
「負け犬」の象徴。家を買ってしまいました


都心にマンションを買った。昨年のことだ。
30代独身、子なし。「負け犬」の私に、友人たちはこぞって、「なんで買ったの?」と尋ねてきた。男友達は「結婚しないと決めたのか…」とあきれた。私はそのたびに、「賃貸で好きな物件を見つけた人はそれでいいと思う。家を買うって、住まいへの『欲』が強過ぎるってことかな」と答える。

「一生独身を決めたのか」と言われると、あまりのワンパターン志向に、へきへきする。一方で、「贅沢だ」とは思う。価格もそうなのだろうが、あまり、平均的な物件とは言えないからだ。最も象徴的なのは、部屋の形が台形であること。わけあって、購入した途端に売ることも考えたのだが、中を見ていない不動産屋からは決まって「長方形じゃないとね…」と言われた。せっかくの1LDKも、開放感を優先し1Roomにしてしまった。一人で暮らすためだけの住まいと割り切らなければ、買わない物件かもれしれない。だから、資産価値は低そうだ。

「何が決め手?」と聞かれることも多いが、選んだ条件は、こんな感じ。
1) 眺望がよいこと。視界をさえぎる建物がないこと。
2) 窓が十分にあり、明るいこと。
3) 一人で住むための最低限の広さ。60?はいらない。1LDK以下。
4) 通勤にラクな都心。できれば、地価が下げ止まったと言われる山手線内。住み慣れている西側。
5) 幹線道路に面していないこと。できれば、閑静な住宅地といわれるところ。

私は入社して12年で6回の転勤を経験、8回の引っ越しをした。部屋探しでは、住む地域のめどをつけ、FAXで50〜100件程度の物件資料を取り寄せ、そのなかから10数件を見て歩いた。いつも最後は、住宅情報誌に掲載されている物件で知らないものはない程になった。これまでに見た間取りは500件を超えただろう。その中で「南向きにこだわるより明るさ優先」「私にとって大事なのは眺望」と学んだ。

今回の決め手も、高台という立地と、大きな窓だった。リビングを囲む幅6mの窓から、レインボーブリッジと東京タワーが見える(それを理由に買ったわけではないけれど)。目の前には緑が広がり、周辺には、自分の階よりも高い建物が技術的に建てられないだろうことを確認した。本当は、低層住宅の最上階のようなところが良かったが、とても手が出ないのであきらめて、中層マンションにした。

住み始めて半年たったころ、近くに、はやりの超高層マンションが完成した。いわゆる高級マンションだ。実は、母はこちらのマンションを気に入っていた。興味本位で、一緒に完成後のマンションを見に行った。

私の住んでいる部屋は11階なのだが、同程度の面積と価格でそちらのマンションを買うとなると、私が買えるのは幹線道路に面した6階まで。目の前には14階の建物がある。24時間フロントサービスや共用ラウンジ、スポーツジム……。母はそれらの説明を聞くたびに、感動と落胆で息をついた。「やっぱり、買い換えたら?」。私は隣でホッとしていた。「自分の部屋の方が好き」。確かに、共用施設の充実ぶりはすごかった。いわゆるブランドマンションで資産価値も下がりにくそうだ。9割の人は、私の部屋よりもこちらを選ぶかもしれない。でも、どれも私には不要だと思えた。一方で、「眺望」と「静かさ」は外せなかった。

とはいえ、今もついつい折込チラシの不動産広告を見てしまう。今のところ、自分の部屋より気に入ったものは見つかっていない。「結局は条件じゃない。『好き』かどうか」。そう思う。この考え方が、結婚にも応用できるといいのだけれど…。